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クラウドセキュリティの最新潮流:EDR・SIEM・SASEを理解する

はじめに:クラウド利用拡大とともに高まる「セキュリティ強化」の重要性
クラウドサービスの活用は、今や大企業だけでなく中小企業にも広がり、業務効率化やコスト削減の中心的手段となっています。しかし同時に、クラウド環境はインターネットを介して利用されるため、情報漏えいや不正アクセスなどのリスクが急増しています。
特に近年は、標的型攻撃やランサムウェアなどのサイバー攻撃が巧妙化し、「ウイルス対策ソフトを入れていれば安心」という時代ではなくなりました。企業の規模を問わず、機密情報・顧客データ・取引情報が狙われています。
こうした背景から注目されているのが、EDR(Endpoint Detection and Response)、SIEM(Security Information and Event Management)、SASE(Secure Access Service Edge)という次世代セキュリティ技術です。これらは、従来の防御型セキュリティに加え、検知・対応・統合管理を実現する新しいアプローチとして急速に普及しています。
本記事では、それぞれの技術の仕組みや導入メリットをわかりやすく解説し、中小企業がどのようにクラウドセキュリティを強化できるかを具体的に紹介します。
EDR・SIEM・SASEとは?次世代クラウドセキュリティの基礎知識
クラウド環境の安全を守るうえで、これら3つの技術は相互に補完し合う関係にあります。まずはその概要を整理しましょう。
EDR(Endpoint Detection and Response)とは
EDRは、パソコンやサーバーなどの「エンドポイント」で発生する不審な挙動を検知し、迅速に対応する仕組みです。
従来のウイルス対策ソフトが「既知のウイルスを防ぐ」ことに重点を置いていたのに対し、EDRは未知の脅威や侵入後の動きまで可視化し、対応を自動化できる点が特徴です。
たとえば、社内PCで不審なファイル操作や通信が行われた場合、EDRは即座にその端末をネットワークから隔離し、感染拡大を防止します。これにより、「感染しても被害を最小限に抑える」ことが可能になります。
比較項目 | 従来のウイルス対策ソフト | EDR |
---|---|---|
主な目的 | 既知のウイルス検知 | 未知の脅威・侵入後対応 |
動作原理 | シグネチャ(定義ファイル)検知 | 挙動監視・自動対応 |
リアルタイム対応 | 弱い | 強い |
導入効果 | 感染防止 | 感染後の被害最小化 |
中小企業でも、リモートワークやBYOD(個人端末利用)が進む今、エンドポイント管理の自動化は欠かせない要素となっています。
SIEM(Security Information and Event Management)とは
SIEMは、社内外のシステムやネットワーク機器、アプリケーションなどから発生するログ情報を一元的に収集・分析し、脅威を早期発見する仕組みです。
ログとは「誰が・いつ・どの操作をしたか」を記録する履歴情報のこと。クラウド時代では、このログ量が膨大になり、人手で監視することは現実的に不可能です。
SIEMは、これらのログをリアルタイムに分析し、異常行動を自動的に検知します。たとえば、通常とは異なる時間帯や地域からのアクセスを検出し、アラートを出すことができます。
中小企業でも、最近はクラウド型SIEMサービスが登場しており、専門知識がなくても運用できる環境が整っています。
SASE(Secure Access Service Edge)とは
SASEは、ネットワークとセキュリティをクラウド上で統合する新しい仕組みです。
従来は「社内ネットワークにVPN接続して利用する」方式が一般的でしたが、SASEではユーザーがどこにいても、クラウド上でセキュリティと通信制御を行います。
これにより、リモートワークやモバイルワークなど、多様な働き方に柔軟に対応できるようになります。
さらに、アクセス制御やトラフィック監視をクラウドで実施するため、セキュリティの統一管理とコスト削減を両立できます。
EDR・SIEM・SASEの関係性
この3つの技術は、以下のように役割が異なりながらも補完関係にあります。
技術 | 主な守備範囲 | 目的 |
---|---|---|
EDR | 端末内部 | 攻撃の検知と対応 |
SIEM | 組織全体 | 異常行動の分析と可視化 |
SASE | ネットワーク外縁 | アクセス制御とクラウド防御 |
これらを組み合わせることで、多層防御(Defense in Depth)を実現できます。
たとえば、EDRで端末の挙動を監視し、SIEMで全社的な脅威を分析、SASEで外部アクセスを制御するという流れです。これにより、「入口」から「内部」「出口」までをカバーする防御体制が完成します。
導入前に知っておくべき専門用語と基本構成
セキュリティ分野では、専門用語が多く混乱しやすいものです。導入検討時には、以下の用語を押さえておくと理解がスムーズです。
用語 | 意味 |
---|---|
SOC(Security Operation Center) | セキュリティ監視・対応を行う専門組織 |
NDR(Network Detection and Response) | ネットワーク通信の異常検知と自動対応 |
ZTNA(Zero Trust Network Access) | 「信頼しない・常に検証する」アクセスモデル |
CASB(Cloud Access Security Broker) | クラウドサービス利用の可視化と制御 |
MDR(Managed Detection and Response) | 専門家がEDR運用を代行するサービス |
中小企業におけるクラウドセキュリティ強化の必要性
クラウド化が進む中で、セキュリティ対策の遅れは事業継続に直結します。特に中小企業では、人員不足・コスト制約・知識不足といった課題があり、「自社には関係ない」と思われがちです。
しかし、実際には中小企業こそ攻撃の標的にされやすいのが現実です。
サイバー攻撃のターゲットは「大企業だけ」ではない
中小企業は、大手企業と取引関係にあることが多く、“サプライチェーン攻撃”の踏み台にされるケースが増えています。IPA(情報処理推進機構)の調査でも、被害企業の約6割が従業員300人以下というデータが出ています。
攻撃者は「セキュリティが甘い中小企業を突破口に、大企業のネットワークへ侵入する」手口を多用します。
つまり、自社が直接狙われていなくても、取引先を守るためにセキュリティ強化が必須なのです。
クラウド利用の拡大が招く“見えないリスク”
SaaSやオンラインストレージを日常的に利用する中で、アクセス権限の設定ミスや共有リンクの公開といった“ヒューマンエラー”による情報漏えいも増加しています。
特に、複数のクラウドサービスを併用するケースでは、どのデータがどこに保存されているか把握できず、「セキュリティの見える化」が困難です。
そのため、ログ監視やアクセス制御を行えるSIEMやSASEが有効となります。
クラウド環境で発生する具体的な脅威事例
クラウドを活用する中で、企業が直面するセキュリティリスクは多岐にわたります。ここでは、代表的な3つの事例を紹介します。
-
アカウント乗っ取り(Credential Theft)
社員のIDやパスワードがフィッシングメールなどで盗まれ、外部から不正アクセスされるケースです。クラウドサービスは外部からアクセス可能なため、1件の漏えいが全社のデータ損失につながる危険があります。 -
クラウド設定ミスによる情報公開
S3やAzure Blobなどのストレージ設定ミスにより、社外にファイルが公開されてしまう事例が多数報告されています。特に「アクセス制御の初期設定をそのまま使う」ことが原因となるケースが多く、SASEなどで一元管理することが効果的です。 -
内部犯行・誤操作によるデータ流出
悪意のある元社員や委託先による情報持ち出し、または操作ミスによる削除・共有ミスなど、**「内部からのリスク」**も無視できません。EDRやSIEMによる監視ログの可視化が、抑止効果を生み出します。
セキュリティ対策の“属人化”を防ぐ仕組み化
多くの中小企業では、IT担当者が1人しかおらず、セキュリティ管理が“属人化”しがちです。
担当者の退職や異動によってノウハウが失われると、すぐに体制が崩壊してしまいます。
これを防ぐためには、「仕組みで守る」セキュリティ設計が重要です。
以下のような体制を整えることで、担当者依存から脱却できます。
対応領域 | 対応策 |
---|---|
ログ監視 | SIEMによる自動分析・異常検知 |
端末防御 | EDRによる自動隔離・復旧 |
ネットワーク制御 | SASEによるクラウド統合管理 |
運用体制 | 外部SOCやMDRサービスの活用 |
こうしたツールや外部支援を組み合わせることで、「人ではなく仕組みで守る」体制を構築できます。
補助金・助成金を活用したセキュリティ投資の進め方
セキュリティ強化には一定のコストがかかりますが、国や自治体のIT導入補助金・事業再構築補助金などを活用すれば、初期費用を抑えることができます。
たとえば、EDRやSIEMを含むセキュリティソリューションは、「業務改善ITツール」として補助対象になる場合があります。
また、商工会議所が実施する「デジタル化推進支援事業」などでも、クラウドセキュリティ導入を支援するケースがあります。
「コストが不安だから導入できない」ではなく、「補助金を活用して段階的に整備する」という発想が重要です。
EDR・SIEM・SASE導入で得られる効果と注意点
次に、これらを導入することで得られる実際の効果と、注意すべきポイントを整理してみましょう。
検知スピードの向上とインシデント対応力の強化
従来の防御中心の対策では、「攻撃を受けてから気づくまでに数週間~数か月」かかることも珍しくありません。
しかしEDRやSIEMを導入すれば、異常行動の検出から対応までを数分~数時間で完結できます。
実際、ある中堅製造業では、EDR導入によりランサムウェア感染から30分以内に端末隔離が完了し、被害を最小化できたという事例もあります。
こうした迅速対応こそ、“攻撃を防ぐ”から“攻撃に強い企業”への転換を実現します。
ゼロトラスト時代における柔軟なアクセス制御
SASEは「どこからでも安全にアクセスできる環境」を提供します。
特にゼロトラスト(Zero Trust)思想に基づくアクセス制御では、ユーザー・端末・接続先のすべてを常に検証し、条件を満たした場合のみ通信を許可します。
これにより、リモートワークや外出先からの利用でも、VPNのような煩雑な設定を必要とせず、安全な接続が可能になります。
「どこでも働ける」が当たり前になった現代において、SASEは業務の自由度とセキュリティの両立を支える技術です。
運用コストと人的負荷の最適化
セキュリティ運用には、24時間365日の監視体制が理想ですが、中小企業が自前でそれを実現するのは現実的ではありません。
そこで注目されるのが、SOC(セキュリティオペレーションセンター)やMDR(Managed Detection and Response)などの外部サービスです。
これらを利用することで、専門家が常時監視・分析を行い、異常を検知した際に即座に対応してくれます。
「人材不足の解消」「運用コストの平準化」といった効果も得られるため、経営負担の軽減にもつながります。
導入時のよくある失敗例と回避策
次のような失敗パターンは、導入前に必ず押さえておきましょう。
失敗例 | 回避策 |
---|---|
高機能すぎて使いこなせない | 自社規模・業務に合った段階的導入を選ぶ |
初期設定ミスで運用停止 | 導入時はベンダーによる設定支援を依頼 |
運用ルールが曖昧 | 標準運用手順(SOP)を文書化しておく |
費用対効果が不明確 | 可視化レポートを活用しROIを測定 |
セキュリティは「導入して終わり」ではなく、「運用して育てるもの」です。
小さく始めて、段階的に高度化していく姿勢が成功の鍵となります。
セキュリティ人材が不足する企業のための外部活用戦略
経済産業省の調査によると、日本のセキュリティ人材は約19万人不足しているといわれています。
中小企業が専門人材を採用するのは難しいため、外部リソースの活用が現実的です。
たとえば、以下のような外部支援があります。
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MSS(マネージドセキュリティサービス):監視・運用を代行
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クラウドSIEM/EDR運用代行:ログ分析やレポート作成を委託
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セキュリティコンサルティング:リスク分析や体制設計支援
こうした外部サービスを“共同防衛”のパートナーとして取り入れることで、自社に専門知識がなくても高度な防御体制を実現できます。
クラウドセキュリティ最新トレンドと今後の展望
AIによる脅威検知の自動化
AIを活用したセキュリティは、もはや実験段階ではなく実用フェーズに入っています。
ログ分析や脅威予測をAIが自動で行うことで、「検知から対応までの時間を大幅に短縮」できます。
特にEDRやSIEMは、AIを組み合わせることで誤検知を減らし、精度の高いアラートを実現しています。
ゼロトラストモデルの浸透と中小企業の実践ステップ
ゼロトラストは「すべての通信を信頼しない」思想に基づき、SASEやZTNAなどの技術で実装されます。
中小企業が実践するには、次の3ステップで進めるのが現実的です。
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社内外のアクセス経路を洗い出す
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ID管理・多要素認証(MFA)を導入
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アクセス制御をSASEで統合
一度にすべてを導入する必要はなく、段階的に整備すれば十分です。
統合セキュリティプラットフォームの台頭
近年では、EDR・SIEM・SASEを一体化した「統合プラットフォーム型ソリューション」も登場しています。
これにより、複数ツールの連携・設定が簡略化され、中小企業でも導入・運用が容易になっています。
セキュリティの「自動運転化」が進む未来
将来的には、AIと自動化により、「人が監視する」から「システムが守る」時代へ移行します。
脅威検知から隔離・復旧までを自動で行う“自律型セキュリティ”が普及すれば、人的ミスの削減にもつながります。
信頼できるクラウドセキュリティパートナーの選び方
ツール選定以上に重要なのが、パートナー企業選びです。
ポイントは以下の3つです。
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実績とサポート体制(導入後も伴走してくれるか)
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クラウド知識とセキュリティ知見の両立
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自社に合った運用提案力
「製品よりも人を選ぶ」意識が、長期的な安心につながります。
まとめ:EDR・SIEM・SASEで「守り」から「攻め」のセキュリティへ
クラウド活用が進む今、セキュリティ対策はもはや「後付け」ではなく、「設計段階から組み込む」時代になりました。
EDR・SIEM・SASEの導入により、“予防・検知・対応”を一体化した防御体制を構築することができます。
中小企業でも、補助金やクラウドサービスを活用すれば、無理なく導入が可能です。
セキュリティ強化はコストではなく、**「事業継続と信頼性を守る投資」**です。
自社に合ったステップで次世代セキュリティを導入し、安心してDXを進められる環境づくりを始めましょう。
クラウドの安全な運用や導入に関してお悩みの方は、ぜひ当社(国際ソフトウェア)までご相談ください。