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クラウドBCP/DR設計入門:災害・障害に強い企業基盤の作り方

はじめに:クラウドを活用した事業継続と災害対策の重要性
地震や台風などの自然災害、そしてシステム障害やサイバー攻撃は、いつどの企業を襲うかわかりません。特に中小企業にとって、数時間のシステム停止が 売上の大幅減少や取引先からの信頼低下 につながるリスクは極めて高いといえます。
こうしたリスクに備えるために不可欠なのが BCP(事業継続計画) と DR(災害復旧計画) です。近年ではクラウド技術の普及により、従来は大企業でなければ難しかった高度な災害対策が、中小企業でも現実的に導入可能になりました。
本記事では、
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BCPとDRの違いと役割
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クラウドを活用した最新の事業継続手法
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中小企業でも導入できるクラウドDR設計のポイント
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実際の導入事例と成功の秘訣
を体系的に解説します。 「止まらない企業基盤」 を作る第一歩として、ぜひ参考にしてください。
BCPとDRの違いとは?基礎から理解する災害対策
BCPやDRという言葉を耳にする機会は増えましたが、その違いを正確に理解している中小企業担当者は多くありません。ここでは両者の定義と役割を整理し、混同しやすいポイントを明確にしていきます。
BCP(事業継続計画)の目的と範囲
BCPとは、災害や障害が発生した際でも 「企業が重要な業務を継続できるようにする計画」 を指します。たとえば、停電や物流の停止が発生しても、最低限の業務を動かし続けるための仕組みを設計するのです。
BCPはITシステムにとどまらず、従業員の安全確保・代替オフィスの確保・取引先との緊急連絡体制 などを含む広範囲の計画です。つまり「経営戦略の一部」として、事業を守るための包括的な対策だといえます。
表にまとめると以下の通りです。
項目 | BCPの内容例 |
---|---|
人員 | 在宅勤務制度の整備、緊急連絡網の構築 |
設備 | 代替オフィスや発電機の確保 |
IT | クラウドバックアップ、リモートアクセス環境 |
業務 | 重要業務の優先順位づけ、マニュアル整備 |
DR(ディザスタリカバリ)の役割
一方のDRは、システムやデータを元の状態に復旧させるための 具体的な技術的手段 です。バックアップ、冗長化、クラウドを活用した自動復旧などが含まれます。
例えば「サーバーがダウンした際に、どのくらいの時間で再稼働できるか」「データをどの時点まで戻せるか」を定めるのがDR計画です。
つまり BCPが経営全体の継続計画であるのに対し、DRはITシステム復旧の仕組み に特化しているのです。
BCPとDRの相互関係
両者は切り離せるものではありません。BCPが「業務を止めない仕組み」を構築し、その一部としてDRが「システムを復旧させる手段」を担います。
例えるなら、BCPは 「家族全員で避難するための計画」、DRは 「避難ルートや持ち出し品の準備」 といった関係です。両方をバランスよく整備して初めて、災害に強い企業体制が完成します。
中小企業に多い誤解と失敗事例
多くの中小企業で見られる誤解は「データをバックアップしておけばBCPは十分」という考えです。しかし、データが守られても業務を継続できなければ意味がありません。
失敗例
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バックアップはあるが、従業員が在宅で作業できる環境がない
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DRを設計していないため、システム復旧に数日かかり取引停止
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経営層がBCPを「IT部門の仕事」と誤解して関与しない
こうした失敗を避けるためには、BCPとDRを 「経営戦略とIT対策の両輪」 として位置づけることが必要です。
クラウドを活用した事業継続計画(BCP)の最新手法
近年、中小企業でも導入しやすくなっているのが「クラウドを活用したBCP」です。従来は高額な投資や専門知識が必要だった災害対策も、クラウドサービスを用いることで低コストかつ柔軟に実現できます。ここでは最新の手法を紹介します。
クラウドバックアップによるデータ保護
クラウドストレージを利用すれば、オフィスのサーバーが被災してもデータを失わずに済みます。たとえば AWSやAzureの自動バックアップ機能 を活用すれば、設定した頻度で最新データをクラウドに保存できます。
さらに バージョン管理 機能により「昨日のデータに戻す」といった柔軟な復旧も可能です。
メリット
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災害時のデータ損失リスクを最小化
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拠点間でのデータ共有が容易
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専門知識がなくても導入可能
クラウドバックアップは、BCPの最初の一歩として多くの企業におすすめできます。
クラウド型業務アプリの利用
データだけでなく「業務そのもの」をクラウド化することで、オフィスに依存しない働き方が可能になります。
例えば、国産ローコード基盤の Pleasanter を使えば、ワークフローや業務データをクラウド上で一元管理でき、災害時にも業務が止まりません。
また、SaaS型アプリ(会計、CRM、在庫管理など)を利用することで、紙やローカルPCに依存した業務から脱却できます。
導入ステップの例:
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現在利用している業務システムを棚卸し
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クラウドで代替できるサービスを選定
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段階的に移行し、ユーザー教育を実施
リモートワーク体制とBCPの親和性
新型コロナ以降、リモートワークの導入が進みましたが、これはBCPの観点からも非常に有効です。
災害時にオフィスが使えなくても、社員が自宅やサテライトオフィスからクラウド環境にアクセスできれば、業務を継続できます。
必要な要素
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VPNやゼロトラストによるセキュアアクセス
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ビジネスチャット(Mattermostなど)によるコミュニケーション基盤
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クラウド型ファイル共有・業務アプリ
「在宅勤務=コスト」ではなく「事業継続の保険」として捉えることで、経営層も導入の意義を理解しやすくなります。
コストを抑えたクラウドBCPの実現方法
中小企業がBCP導入をためらう大きな理由は「コスト」です。しかし、必要な部分から段階的に導入することで、無理のない投資が可能です。
低コストBCPの実践例
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無料または低価格のクラウドストレージから始める
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重要な業務システムだけを先行してクラウド化
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外部のITパートナーを活用して運用負担を軽減
また、補助金や助成金を活用できるケースも多く、自治体や商工会議所に確認することで負担をさらに軽減できます。
災害・障害発生時に有効なクラウドDR設計のポイント
DR(ディザスタリカバリ)は「ITシステムの復旧手段」に特化した仕組みです。クラウドを活用することで、中小企業でも短時間かつ低コストで復旧を実現できるようになりました。ここでは実際にDRを設計する際の要点を整理します。
RPO・RTOを意識した復旧目標の設定
DR設計の出発点は 「どこまで復旧するのか」 を明確にすることです。
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RPO(Recovery Point Objective):どの時点までのデータを復元できるか
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RTO(Recovery Time Objective):どのくらいの時間でシステムを復旧できるか
例えば、ECサイトを運営している企業であれば「RPO=1時間以内」「RTO=2時間以内」といった目標を定める必要があります。
表にまとめるとイメージしやすくなります。
業務システム | 許容されるデータ損失(RPO) | 許容される停止時間(RTO) |
---|---|---|
会計システム | 1日 | 48時間 |
ECサイト | 1時間 | 2時間 |
顧客管理CRM | 6時間 | 24時間 |
このように「業務の重要度ごとに復旧目標を設定する」ことが成功の第一歩です。
クラウド冗長化の仕組み
クラウドサービスは、複数のデータセンター(リージョン)にデータを複製する「冗長化機能」を提供しています。
代表的な手法:
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マルチリージョン配置:東京・大阪など離れた地域に同じデータを保存
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フェイルオーバー:障害発生時に自動でバックアップサーバーへ切り替え
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ロードバランサー:アクセスを複数サーバーに分散し、障害を局所化
これらを組み合わせることで、 「1つのサーバーが落ちてもサービスは継続」 という仕組みを作れます。
テスト運用の重要性
計画だけ立てても、実際に動作しなければ意味がありません。定期的に「DRテスト」を実施し、想定通り復旧できるかを確認することが不可欠です。
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年1回以上の全社的なDR訓練
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小規模テスト(部門単位)の定期実施
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テスト結果をマニュアルに反映
テストを行うことで「復旧に必要な時間のズレ」「手順の抜け漏れ」などを早期に発見でき、実際の災害時に慌てず対応できます。
セキュリティとDRの両立
クラウドDRでは「セキュリティ対策」と「復旧の速さ」の両立が重要です。
ポイントは以下の通りです。
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データ暗号化:バックアップデータは必ず暗号化して保存
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権限管理:復旧時のアクセス権限を最小限に制御
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監査ログ:復旧時の操作をログに残して不正を防止
つまり「誰でもすぐに復旧できる仕組み」ではなく、セキュリティを担保しつつスピーディに復旧できる仕組み が求められます。
中小企業のBCP/DR導入事例と成功の秘訣
クラウドを活用したBCP/DRは、中小企業でも導入可能です。ここでは実際の導入事例とともに、成功企業に共通するポイントを整理します。
製造業におけるクラウドBCP成功事例
ある中小製造業では、生産ラインが災害で停止するリスクを想定し、 クラウドERPとクラウドバックアップ を導入しました。
結果:
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設備が一部停止しても、クラウドERPで在庫・受発注情報を即時共有
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取引先への納期連絡が滞らず、信頼を維持
「データを守ること=顧客との信頼を守ること」という好例です。
医療業界におけるDR活用事例
中小規模のクリニックでは、電子カルテが使えなくなると診療が止まります。そこでクラウドにカルテ情報をバックアップし、災害時には別拠点からアクセス可能な仕組みを構築しました。
停電時でもモバイル端末を使って診療を継続でき、患者への影響を最小化できました。
中小企業が直面する導入課題
多くの企業が挙げる課題は以下の通りです。
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コスト負担:「予算が限られている」
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専門知識不足:「社内にIT人材がいない」
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経営層の理解不足:「投資効果が見えにくい」
これらを克服するには、小規模から始める・外部のITパートナーと連携する といった工夫が必要です。
成功企業に共通するポイント
成功企業には以下の共通点があります。
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経営層が主体的に関与
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段階的に導入し、効果を見える化
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外部パートナーを活用し、専門性を補完
つまり「丸ごと一気に導入」ではなく、 少しずつ進めながら経営層を巻き込み、外部の力を借りる ことが成功の鍵です。
まとめ:クラウドBCP/DR設計で実現するレジリエントな企業基盤
本記事では、中小企業でも実現可能なクラウドBCP/DRの基本と最新手法を紹介しました。
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BCPは経営全体の継続計画、DRはシステム復旧の仕組み
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クラウドを活用すれば、低コストで柔軟な災害対策が可能
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事例から学べるのは「小さく始めて段階的に拡大」するアプローチ
災害や障害は避けられませんが、備えることで被害を最小化し、企業の信頼を守ることができます。
今こそ「止まらない企業基盤」を整えるタイミングです。もしBCP/DR設計に関心を持たれた方は、ぜひ専門パートナーにご相談ください。当社では中小企業向けに クラウド活用を前提としたBCP/DR支援サービス を提供しています。
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